大規模修繕工事

【解説】マンション大規模修繕に必要な費用の平均相場と検討の進め方

大規模修繕工事費用

マンションは新築から40年、50年ほどの寿命があると言われています。快適な住環境を維持していくために、定期的に建物や設備の点検、診断が行われ、メンテナンスを実施するために作成されるのが長期修繕計画です。しかし、どんなに点検や診断で細やかなメンテナンスを実行し続けても、経年劣化による老朽化を食い止めることはできません。建物の資産価値は時間ともに目減りしていく現実があります。それゆえに長期修繕計画を実行することで建物の資産価値を取り戻す、あるいは更なる向上を図る一大イベントが大規模修繕工事です。マンション購入者が修繕積立金の名目で毎月積み立てを行うことは、将来の住環境と資産価値を守ることに繋がります。

では、その大規模修繕工事に必要な費用の平均相場は、どの程度なのでしょうか?また積み立て不足により工事費用が足りないという時は、どう対応するのでしょうか?マンション大規模修繕の費用の目安や相場について、基本的な知識をシェアしたいと思います。

ココがポイント

  1. 大規模修繕工事の概要と費用の目安や相場を知ることが重要です。
  2. 大規模修繕工事の工事内容の内訳について確認しましょう。
  3. 大規模修繕工事を実施するにあたり、不足する費用の対応について確認しましょう。

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大規模修繕工事とは

大規模修繕は、マンションの管理組合または管理会社が策定した長期修繕計画に基づき、共用部分の修繕、改修、補修およびメンテナンス行う大掛かりな工事です。目的は建物の資産価値の維持であり、国土交通省の統計では、1回目:築13~16年前後、2回目:築26~33年前後、3回目:築37~45年前後 におおむね実施されています。工事の内容は、マンションの常日頃の修繕状況にもよりますが、以下のような修繕項目があります。

マンション修繕内容

  • 外壁塗装
  • 外壁タイルひび割れ補修
  • 屋根・床防水
  • 共用廊下、階段、エントランスの補修やクリーニング
  • エレベーター交換または改装
  • 給排水管の更新
  • バリアフリー化
  • 仮設工事(必須)

などが実施の検討事項です。

管理組合の主導のもとに修繕委員会を立ち上げて、管理会社あるいは外部のコンサルタントのフォローを受けながら、工事の計画、見積もり、業者選定、資金運用などの実務を担当します。修繕委員会の運営が大規模修繕工事の成功を大きく左右します。

修繕委員会の設立目的と役割

大規模修繕工事を控えている場合、修繕委員会(専門委員会)が立ち上がります。主な役割としては、

  • 大規模修繕計画の作成と管理
  • 施工業者の選定
  • 入居者の相談や問い合わせ対応

を中心に、理事会と連携して進めることになります。理事会の下部組織の立場でありながら、諮問機関の役割も果たします。工事の仕様などは、修繕委員会の意見を受けつつ、最終的に理事会が決議します。ちなみに修繕委員会は理事会の決議に参加せず、あくまでも大規模修繕工事における議題の判断材料提供やアドバイス、答申が目的の組織です。マンション入居者による大規模修繕工事のプロジェクトチームと捉えるとわかりやすいでしょう。

大規模修繕工事費用の目安・相場

国土交通省の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」から、マンションの規模(戸数)毎に、大規模修繕工事回数「1回目」「2回目」「3回目以上」における大規模修繕工事金額に着目し、目安として表にまとめました。n数がもっとも多い金額を掲載しています。

戸数 1回目 2回目 3回目以上
20戸以下 2,000万円~4,000万円 2,000万円以下 2,000万円以下
21~30 2,000万円~4,000万円 2,000万円~4,000万円 2,000万円~4,000万円
31~50 4,000万円~6,000万円 2,000万円~4,000万円 2,000万円~4,000万円
51~75 4,000万円~6,000万円 4,000万円~6,000万円 4,000万円~6,000万円
76~100 8,000万円~1億円 6,000万円~8,000万円 6,000万円~8,000万円
101~150 1億円~1.5億円 1億円~1.5億円 1億円~1.5億円
150~200 1.5億円~2億円 1億円~2億円 1.5億円~2億円
200~250 2億円~3億円 2.5億円〜3億円 2~2.5億円
300戸以上 4〜5億円 5億円以上 5億円以上

出典:マンション大規模修繕工事に関する実態調査

戸数と大規模修繕工事の費用は比例関係にありますが、100戸以上のマンションになると億単位の修繕積立金が目安です。上記の表から1戸あたり、おおむね100万円以上が相場と見ることもできるでしょう。ただし統計は過去の工事の集計によるものであり、同じ工事内容とも限りません。適正な工事価格はマンションごとに違うことを念頭に置いて、参考にされますよう、ご注意願います。

大規模修繕工事の回数ごとの工事内訳の特徴

マンションを建ててから時間が経過することで老朽化していく箇所が多岐にわたるため、何回めの大規模修繕工事かによって修繕箇所が異なってくることが一般的です。工事費用の内訳においては、1回目は、外壁、防水、仮設工事の割合が大きく、2回目となるとさらに給排水設備の割合も増えます。3回目以上になると1回目の割合に金物・建具工事の割合が増える傾向です。

大規模修繕工事費用は不足しがち

マンションの大規模修繕工事は、第二回以降に修繕積立金が足りず費用が不足するケースマンションが非常に多いです。国土交通省が提供している長期修繕計画作成ガイドラインでは、修繕積立金の将来的な引き上げ額を少なくするため「均等積立方式」により修繕積立金を算出することをベースにしていまが、「段階増額積立方式」を採用するマンションが多いのも事実です。これは、マンションを建てたデベロッパーが初期の販売価格を低く抑えるため、修繕積立金を販売当初は低く設定することが原因となっています。そのため、第二回大規模修繕工事のあたりで修繕積立金が不足することに管理組合が気づき、慌てて修繕積立金の引き上げや借り入れの検討を実施するというケースが頻発しています。修繕積立金は見直しが行われることは、不動産業界では当たり前と認識されていても、購入予定者が認識しているとは限りません。そのため管理組合との間でトラブルとなる可能性が内包されているわけです。もしマンションを購入する予定があるのなら、事前に不動産業者などに修繕積立金の方式についての説明を受けることをおすすめします。

しかし、どちらの方式で積み立てても、大規模修繕工事の資金が不足する事態が起こり得ます。そのような場合、どのような対応策があるのかを説明しましょう。

出店:長期修繕計画作成ガイドライン - 国土交通省

費用が足りない場合の5つの対応策

「大規模修繕費用が足りません・・・」

こんなことを管理組合から言われると、誰でも気持ちが良いものではありません。費用が不足する原因のほとんどは、1.修繕積立金の初期設定が低く抑えられすぎていた、2.管理組合の見直しの甘さに集約されると言っても過言ではありません。管理組合では、マンション運営や工事に精通する人がいるとは限らないため、ついつい、修繕積立金の見直しを見過ごしてしまうことも想定されます。

どうしても修繕積立金を確保することが難しい場合は、

  • 工事の延期
  • 工事内容の見直し
  • 工事費用削減
  • 一時金の徴収
  • 金融機関からの融資

の中から、最適な手段が取られます。

大規模修繕工事の見直しの合理的な方法とは?

大規模修繕工事の費用不足の対応策として、最も合理的な手段はどれかを検討してみましょう。

まず大規模修繕工事のタイミングは、法律などで決まっているわけではありません。前述した国土交通省の統計でも、工事を実施した年数にバラツキがあります。そこで建物劣化調査診断による評価次第では、「工事の延期」あるいは「工事内容の見直し」を図ることで、費用の不足を回避できる可能性もあります。次に「一時金の徴収」「金融機関からの融資」ですが、劣化がひどすぎて工事を実施せざるを得ないが、費用が不足しているためやむを得ない場合に取るべき手段です。工事を先送りにしたところで、更なる負担が強いられるのは目に見えています。入居者との合意形成が難しいかもしれませんが、工事をやらざるを得ない場合は、資金調達することが最善策です。最後に「工事費用削減」ですが、スケジュールを見直すことなく費用不足を解消することが可能なため、もっとも合理的な手段であると言えます。少し詳しく、次章で述べてみたいと思います。

大規模修繕工事費用の削減

管理会社からの提案で工事の見積もりをしている場合は、見積もり先の見直しによって費用削減効果が現れます。なぜならば、管理会社が受け取る中間マージンが、施工の見積もりに上乗せされているからです。直接、施工会社と契約すれば、中間マージンの分は費用を削減できます。しかし、管理組合や修繕委員会だけで施工会社を選ぶことは、かなり荷が重すぎるものです。建築設計や施工のプロがメンバーとして参加していれば話は別ですが、大抵の場合は、専門家つまりコンサルタントなどの支援を必要とします。専門家の助言を受けながら、施工会社を選定するわけですが、懇意にしている施工会社を紹介する一方で、その施工会社からリベートを受け取るという図式も依然として存在します。

つまり大規模修繕工事を通じて私腹を肥やす図式が成り立っていると、中間マージンを削減したことにはなりません。専門家に任せきりでも、ある程度のリスクがあるということを知っておくべきです。リスクを最小限にとどめるには、複数の施工会社による相見積もりやプレゼンを実施して、最終的に内定を出すという流れを、管理組合で共有するようにしましょう。

適正な発注方式を採用する

大規模修繕工事は、

  • 外部コンサルや設計事務所に委託する設計・監理方式
  • 管理組合が主体となり施工会社に委託する責任施工方式

という2つ方式によって進められます。

設計・監理方式では、外部コンサルや設計事務所に対する委託費用が発生しますが、工事会社の競争入札などで、費用の削減が期待できます。責任施工方式では、外部コンサルや設計事務所に対する委託費用を必要としません。それはメリットですが、施工会社を選ぶ際に見積もりの安さを優先するなど、技術力や実績を見誤ってしまうと、経験不足による杜撰な工事が行われ、後々、取り返しのつかないことになるリスクも含まれます。大規模修繕工事にコンサルが必要かどうかについては、さまざまな意見はありますが、判断基準としては、

  • 規模(戸数)
  • 管理組合の知識レベル
  • 大規模修繕の経験(初回か、2回目かなど)
  • メリットとデメリットの共有
  • 統計

などがあります。

統計による参考データとしては、過去に大規模修繕を行ったマンションの発注方式の割合があります。

発注方式 責任施工 設計・監理 CM その他 不明
割合 44.7% 34.8% 3.5% 4.3% 12.7%

総戸数規模別による発注方式の傾向を詳しく見ると、規模が大きくなるほど「設計・監理方式」の割合が高くなる傾向です。「20戸以下」では「責任施工方式」が54.1%ですが、151戸以上では「設計・監理方式」の割合の方が高くなり、「501戸以上」では57.1%となっています。仮に「設計・監理方式」を採用するにしても、設計事務所やコンサルまたは施工会社ごとに選定基準や指標など明確にしておくことが重要です。

例えば、

  • 会社概要(資本金や業務範囲、経営状況など)
  • 一級建築士の有無
  • 大規模修繕コンサルの実績
  • 施工会社等とのつながり
  • アフターサービス
  • 業界適正性(法律違反や行政処分、補償制度の有無など)

などです。

ちなみに、発注や業者選定に関するルールにおいて、明文化したルールがある5%、明文化していないが暗黙のルールがある3%、ルールはない0%。不明2%というデータがあります。暗黙のルールあるいはルールがない状況では、無駄に費用が流出してしまっている可能性が無いとは言い切れません。つまり、ルールの明文化だけで、費用削減の効果が期待できると言えます。適正な発注こそが費用削減の第一歩になります。

出典: 平成30年度マンション総合調査結果

まとめ

マンションの大規模修繕に必要な費用の平均相場は、1戸当たりおおむね100万円以上ということを統計から導きました。しかし、マンションの戸数や施工方法(タワーマンションと低層マンションでは工事難易度が変わるため(などよって、費用負担は変わります。大規模修繕工事の費用は修繕積立金が用いられますが、初期の見通しが甘ければ、数年後には値上げなどで対応せざるを得ません。そうならないためにも長期修繕計画は適宜、見直しが求められます。

万一不足が判明した場合は、工事費用の削減で対応しできるだけ入居者への費用負担の増加や金融機関の融資が無いようにすることが後々に禍根を残さないポイントとなります。工事の発注先の見直しを実施することで工事費用を削減することは可能ですので、1.発注の見直し、2.発注の見直し余地がない、修繕積立金を上げる余地がないことによりどうしても資金が足りない場合は借り入れを検討するという優先度で検討していきましょう。

本コンテンツは基本的に情報の提供を主旨としていますが、情報源の確実性を保証するものではありません。
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消防点検ストア編集部

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