移動式粉末設備

移動式粉末消火設備とは?使い方や法定耐用年数および点検について解説

消火設備

屋外や建物屋上の駐車場などで見かける赤くて細い箱は「移動式粉末消火設備」と言われる消防設備です。消火活動の際は、20mほどの長さのあるホースを持って火元に移動し、ガスなどで圧縮された消火薬剤を放出します。消火器約10本分の消火薬剤を放出できるため、油や電気が原因の火災でも消火できる能力を有しています。本記事では、この移動式粉末消火設備について、情報提供させていただきます。

ココがポイント

  1. 移動式粉末消火設備とはガスの圧力で粉末消火薬剤を放射する消化設備
  2. 格納しているホース(20m)を伸ばして火元へダイレクトな消火作業が可能
  3. 駐車場などに適しており定期点検が義務付けられている

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移動式粉末消火設備とは

外壁の無い建物、例えば屋内外の駐車場(立体駐車場や平面機械式駐車場)や自動車または飛行機整備工場、火力発電所、化学工場など、油や電気火災が想定される場所に設置されます。移動式と名称が付いているのは、収納ボックスには20mのホースが格納されており、それを持って火災が発生しているポイントまで移動して消火作業を行うためです。粉末消火設備ということから、ホースからは粉末の消火薬剤が噴射されます。消化能力も高く、屋内消火栓や補助散水設備の代替設備として使用が認められています。

移動式粉末消火設備の法定耐用年数

日本消火装置工業会は、消火設備の機器の交換を推奨するおおよその期間を平成19年3月に公表しています。

その中で移動式粉末消火設備は16年~20年です。
ただし、オーバーホール(部品レベルのメンテナンス)を見込んでいます。

オーバーホールの時期は設置後、約10年毎に実施することが目安となりますが、その期間および方法等については別途相談ということになります。

出典:消火設備の維持管理について関するご提案http://shosoko.or.jp/info/index.html

消火薬剤の種類

消火粉末は第1種~第4種まであり、特徴としては「色の違い」「主成分の違い」などです。

種類 第1種粉末 第2種粉末 第3種粉末 第4種粉末
主成分 炭酸水素ナトリウム 炭酸水素カリウム リン酸塩類 炭酸水素カリウムと尿素
粉末の色 淡紅
適正火災 油・電気 油・電気 全て 油・電気

移動式粉末消火設備は「第3類粉末」を充填して、あらゆる火災でも使用されるようになっています。消火薬剤は33kgも充填されており、オーソドックスなサイズの消火器(消火薬剤量は約3kg)と比較しても10本分以上に相当するため、十分な消火能力を発揮するすることができます。

移動式粉末設備の商品価格

メーカー名 品番 本体希望小売価格(税別)
ヤマトプロテック YDA-75CG 350,000円
HATUTA MSCP-75B 380,000円
モリタ宮田 SHA33 380,000円

移動式粉末消火設備のメリット

移動式粉末設備を利用する上でのメリットを以下に記載させていただきます。

  • 操作が簡単
  • 一人でも放射可能
  • 省スペース設計で据付けも簡単
  • 配管工事不要
  • 移設が容易
  • 電気絶縁性が高く高電圧設備に使用可能
  • 寒冷地での使用が可能(消火薬剤は気温に左右されない)
  • 消火薬剤は長期保存可能で取替不要
  • 使用後の清掃や再生が比較的簡単

粉末消火設備の設置基準

消防法施行令第13条の「水噴霧消火設備等を設置すべき防火対象物」より、粉末消火設備(移動式含む)の設置基準は、以下のとおりです。

設置基準の適用場所(一般対象物) 床面積
飛行機又は回転翼航空機の格納庫
屋上部分で、回転翼航空機又は垂直離着陸航空機の発着の用に供される部分
道路(総務省令で定めるもの)の用に供される部分 屋上 600㎡以上
その他 400㎡以上
自動車の修理又は整備の用に供される部分 地階、2階以上 200㎡以上
1階 500㎡以上
駐車の用に供される部分 地階、2階以上 200㎡以上
1階 500㎡以上
屋上 300㎡以上
機械式の乗降による駐車場 10台以上
発電機、変圧器その他これらに類する電気設備が設置されている部分 200㎡以上
鍛造場、ボイラー室、乾燥室その他多量の火気を使用する部分 200㎡以上
通信機器室 500㎡以上

出典:消防法施行令第13条(水噴霧消火設備等を設置すべき防火対象物)

危険物の規制に関しての設置基準

危険物の規制に関する政令別表第四で定める数量の1,000倍以上の指定可燃物を貯蔵し、又は取り扱う建築物についても設置基準があります。粉末消火設備は、可燃性固体類、可燃性液体類又は合成樹脂類(不燃性又は難燃性でないゴム製品、ゴム半製品、原料ゴム及びゴムくずを除く。)に係るものに対して有効です。

参考:危険物の規制に関する政令別表第四

移動式粉末の設置・使用条件

移動式粉末消火設備は消火薬剤を大量に放出するため、煙、消火薬剤で充満しないような場所でしか設置および使うことはできません。

原則として水平距離で15mの間隔を取って設置します。

移動式粉末消火設備の使い方

例として、ヤマトプロテック製の移動式粉末消火設備および関連商品を取り上げて、使い方を説明します。

操作方法

  1. 加圧用ガス容器のハンドル(図①)を全開にする(左回し)
  2. 放出弁レバー(図➁)を「開」の位置に下げる
  3. ノズルを持ってホースを取り出す
  4. 火元に移動する
  5. ノズルの開閉弁コック(図③)を全開にする
  6. 消火

使用後の処理

  • 排気操作
    粉末貯蔵容器内の残留ガスを全て排出する
  • クリーニング操作
    クリーニング用キットを用いてクリーニングする
  • 再充填
    二酸化炭素ガスと粉末消火薬剤を再充填する
    (消防設備士の指導および販売店に依頼)
  • ガス容器の廃棄
    (販売店に依頼)

出典:移動式粉末消火設備 YDA-75CG

移動式粉末消火設備 クリーニング用キット

移動式粉末消火設備の点検

機器点検は6ヵ月に1回、総合点検は1年に1回以上実施することが義務付けられています。点検においては「消防設備士第3類」もしくは「第1種消防設備点検資格者」を有する者の立会いが必要です。総合点検結果については、所轄の消防署へ報告書を提出します。移動式粉末消火設備の点検は、主に3つの部分を中心に行われます。

  • 粉末貯蔵タンク
  • 加圧用ガス容器
  • ホース・表示灯及び標識

以下に、ガス圧方式に関わる粉末消火設備の点検項目を記しておきます。

粉末貯蔵タンク(ガス圧方式)

点検項目 点検方法 判定方法(※は留意事項)
外形 目視により確認する。 ア 貯蔵タンク、貯蔵容器等は変形、損傷、著しい腐食、錆、塗装のはく離等がないこと。

イ 容器本体は取付枠等に確実に固定されていること。

表示及び標識 目視により確認する。 ア 貯蔵タンクの設置場所には、「粉末消火剤貯蔵容器置場」等の表示が適正にされており、損傷、脱落、汚損等がないこと。

イ 高圧ガス保安法により高圧ガス貯蔵所(高圧ガス300m3)に該当するものにあって

は、同法令に定められた標識等が適正に設けられていること。

安全装置 目視により確認する。 放出口のつまり、損傷等がないこと。
消火剤量 目視又は秤を用いて確認する。 所定の消火剤が規定量以上貯蔵されていること。
放出弁 1.目視及びスパナ等により確認する。

2.開閉機能を試験用ガスを用いて確認する。

3.試験用ガスを用いて操作管接続部分から加圧し、ガス漏れの有無を確認する。

ア 変形、損傷、締付部の緩み等がないこと。

イ 開閉機能が正常であること。

ウ ガス漏れがないこと。

外形 目視により確認する。 変形、損傷、脱落等がないこと。
ガス圧式の放出弁開放装置 1.放出弁に装着されている放出弁開放装置を取り外し、ピストンロッド及び破開針又はカッターを目視により確認する。

2.手動操作の機能を有するものにあっては、安全ピン等を抜きとり手動により作動させ、破開針又はカッター等の作動、スプリング等による復元状態を確認する。

3.ガス圧のみで作動するものにあっては、破開針又はカッター等を手で引っぱり確認する。

ア ピストンロッド及び破開針又はカッター等に、変形、損傷等がないこと。

イ 作動及び復元作動は正常であること。

バルブ類 目視及び手で操作することにより確認する。 ア 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。

イ 開閉位置が正常であり、開閉操作が容易にできること。

※点検終了後は、元の開閉状態に復元させておくこと。

 

加圧用ガス容器

点検項目 点検方法 判定方法(※は留意事項)
周囲の状況 目視及び温度計(JIS規格品)により確認する。 ア 防護区画以外で防護区画を通らないで出入りできる場所であること。イ 湿度が著しく高くなく、周囲温度は 40℃以下であること。

ウ 直射日光、雨水等の影響を受けるおそれがないこと。

エ 設置場所には照明設備、明り窓等が設けられていて、周囲に障害物がなく、整理、整とんされ、円滑な操作及び点検が行えるスペースが確保されていること。

外形 目視により確認する。 ア 加圧用ガス容器、取付枠、各種計器等に変形、損傷、著しい腐食、錆、塗装のはく離等がないこと。

イ  容器本体は取付枠又は架台に容器押え等により確実に固定されていること。ウ 容器は規定の本数が設置され、容器の番号は維持台帳の番号と一致していること。

表示 目視により確認する。 ア 貯蔵容器の設置場所には、「窒素ガス貯蔵容器置場」等の表示が適正にされており、損傷、脱落、汚損等がないこと。

イ 高圧ガス保安法により、高圧ガス貯蔵所(高圧ガス300m3)に該当するものにあっ

ては、同法令に定められた標識等が適正に設けられていること。

ガス量

 

次の手順により確認する。

(1) 窒素ガスを用いるもの

① 圧力調整器のあるものにあっては二次側に取り付けられている点検コック等を閉鎖して、容器弁を手動操作又は容器弁開放装置を電気又はガス圧により作動させて開放し、圧力調整器の一次側圧力計の指針を読み取る。

② 封板式のものにあっては、重量測定又は検圧治具を用いて圧力測定する。

(2) 二酸化炭素を用いるもの

① スパナ、レンチ等により連結管、固定用押え等を取り外し、加圧用ガス容器を取り出す。

② 容器ごと計量器にのせ総重量を計る。

③ 総重量から容器重量及び開放装置の重量を引く。

ア 窒素ガスを用いるものにあっては、消火剤 1kg につき温度 35℃で 0 MPa の状態に換算した体積が 40ℓ以上であること。

イ 二酸化炭素を用いるものにあっては、消火剤 1kg につき 20g 以上であること。

容器弁 外形 目視により確認する。 ア 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。

イ 消防庁長官が定める基準に適合するもの又は、総務大臣又は消防庁長官が登録する登録認定機関の認定合格証が貼付されていること。

安全性 「消防用設備等の点検要領の一部改正について

(平成26年3月31日付け消防予第138号)」別添2

「不活性ガス消火設備等の容器弁等の点検要領」に規定する点検方法に従い、以下の項目を確認する。

①外観点検

②構造、形状、寸法点検

③耐圧性能点検

④気密性能点検

⑤表示点検

「消防用設備等の点検要領の一部改正について(平成 26 年 3 月 31 日付け消防予第 138 号)」別添 2「不活性ガス消火設備等の容器弁等の点検要領」に規定する判定方法による。※
安全装置(容器弁に設けられたものに限る。) 外形 目視により確認する。 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。
安全性 「消防用設備等の点検要領の一部改正について(平成26年3月31日付け消防予第138号)」別添2「不活性ガス消火設備等の容器弁等の点検要領」に規定する点検方法に従い、以下の項目を確認する。

①外観点検

②構造、形状、寸法点検

③耐圧性能点検

④気密性能点検

⑤安全装置等作動点検

⑥表示点検

「消防用設備等の点検要領の一部改正について(平成 26 年 3 月 31 日付け消防予第 138 号)」別添 2「不活性ガス消火設備等の容器弁等の点検要領」に規定する判定方法による。※
容器弁開放装置 外形 目視により確認する。 ア 変形、損傷、脱落等がないこと。

イ ガス圧式のものにあっては、操作管との接続部分の緩み、脱落等がないこと。

ウ 手動操作機構を有する開放装置にあっては、操作部の著しい錆がないこと。

エ 容器弁開放装置は容器弁本体に確実に取り付けられていること。

オ 安全ピン、ロックピン等が装着され、封印されていること。

安全性 (1) 容器弁に装着されている容器弁開放装置を取り外し、ピストンロッド破開針又はカッターを目視により確認する。

(2) 手動操作の機能を有するものにあっては、安

全ピン等を抜き取り手動により作動させ、破開針又はカッター等の作動、スプリング等による復元状態を確認する。

(3) ガス圧のみで作動するものにあっては、破開針又はカッター等を手で引っぱり確認する。

(4) バルブ開放式の場合は、手動によりバルブ

を開放して確認する。

ア ピストンロッド及び破開針又はカッター等に変形、損傷等がないこと。

イ 作動及び復元作動は正常であること。

バルブ類 目視及び次の手順により確認する。

(1) 加圧用ガス容器の容器弁の消火剤貯蔵タンクに接続する部分を密栓する。

(2) バルブ類を手動操作し、容器弁を開放する。

ア 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。

イ 開閉位置が正常であり、開閉操作が容易にできること。

※(ア) 点検終了後は、元の開閉状態に復元させておくこと。

(イ) 開閉操作が容易にできることを一度確認されたバルブ類のうち、消火剤貯蔵タンク、放出弁、加圧用ガス容器等の粉末消火設備の各構成機器に変形、損傷、著しい腐食等がないことが確認されたものにあっては、(1)及び(2)の手順により実施する開閉操作の容易性に関する点検を省略することができる。

 

消防予第138号 消防用設備等の点検要領の一部改正について(平成26年3月31日)

ホース・表示灯及び標識

点検項目 点検方法 判定方法(※は留意事項)
周囲の状況 目視により確認する。 周囲に使用上及び点検上の障害となるものがないこと。
収納箱 目視により確認する。 ア 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。 イ 扉の開閉が容易にできること。

ウ 貯蔵容器は、取付枠等に確実に固定されていること

ホース ホースリールから引き出して、目視及び巻尺等 により確認する。 ア 変形、損傷、老化、接続部の緩み等がないこと。

イ ホースリールの根元からホーン(ノズル)先端までの長さは、設置時の状態とな っていること。

ホースリール 目視及び手で操作することにより確認する。 ア 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。 イ ホースの引出し、格納(巻戻し)等が円滑に行えること。
ノズル 目視及び手で触れる等して確認する。 ア 著しい腐食、つまり等がないこと。

イ 握り部分の危害防止のために木製、合成樹脂製であるか又は把手等が設けてあり、 破損、脱落等がないこと。

ノズル開閉弁 目視及び手で操作することにより確認する。 ア 変形、損傷、著しい腐食等がないこと。 イ 開閉操作は容易で円滑に行えること。 ※ 開閉弁は常時「閉」の状態であること。
表示灯及び標識(移動式に限る。) 目視により確認する。 ア 設置位置が適正であること。

イ 表示灯は、変形、損傷等がなく、正常に点灯していること。

ウ 移動式の粉末消火設備である旨の標識に損傷、脱落、汚損等がなく、適正に取り 付けられていること。

出典:粉末消火設備 点検要領 総務省消防庁

容器弁の開放点検

平成22年9月に新潟県柏崎市で発生した駐車場火災において、移動式粉末消火設備の加圧用ガス容器の容器弁が開放できないトラブルが発生しています。

渦中のトラブルを重く見たことで、平成28年6月1日から粉末消火設備及びハロゲン化物消火設備について、加圧用ガス容器のバルブ類の開放点検が必要となりました。

点検済みの容器弁はシール(容器弁バルブ類点検済証)を貼ることになっています。

なお、開放点検実施済みの容器弁は、外観に異常等が見られない場合、次回以降省略可能です。

まとめ

移動式粉末消火設備の使い方、法定耐用年数および点検について解説しました。

特に点検については、

  • 機器点検(6ヵ月に1回)
  • 総合点検(1年に1回)

が義務付けられており、かつ点検項目などが細かく定められているため、専門業者による点検が安心かつ安全を担保します。万一、ショッピングモール駐車場で火災の第一発見者になったとしても、慌てずに移動式粉末消火設備の収納箱を開いて消火活動が行えるよう、操作手順だけでも覚えて欲しいと思います。

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消防点検ストア編集部

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