今回は、避難ハッチの向きについて解説しました。ポイントは以下となります。1.避難ハッチの向きは図面で確認できる、2.都道府県で避難ハッチの向きは異なることもある、3.降下空間は避難ハッチの向きに関係なく必要とする

避難ハッチ

【徹底解説】避難ハッチを埋め込む向きを図面上で向きを確認する方法

避難ハッチ向き

避難ハッチはバルコニーに設置されています。非常時にハッチを開けて、収納されている吊り下げタイプのハシゴを降ろして、階下に避難するための避難器具です。この避難ハッチは設置基準によって、防火対象物に対して必要個数や設置位置などが明確に決められています。しかしバルコニーの床面に埋め込む際の「向き」については、特に触れられていません。

避難ハッチの向きとは、ふたの吊元の位置とも言い換えることができます。建築図面や施工指示では吊元が示されていますが、バルコニーの手すり側、あるいは室内側指定するのは、何か理由があると推測できます。そこで今回は、避難ハッチを埋め込む向きについて、その理由などを紐解いてみたいと思います。

ココがポイント

  1. 避難ハッチの向きは図面で確認できる
  2. 都道府県で避難ハッチの向きは異なることもある
  3. 降下空間は避難ハッチの向きに関係なく必要とする

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避難ハッチの設置基準では「向き」に定めはない

避難ハッチの設置基準では、取り付けの向きについては触れられていません。あくまでも消防法施行令第25条第1項で、収容人員を考慮した避難器具の設置が必要な防火対象物の階についての規定が定められているだけです。具体的には、

  • 設置すべき避難器具の種類
  • 設置すべき避難器具の個数
  • 避難器具の設置に関する緩和

になります。

避難ハッチの設置基準一覧

避難器具の設置基準をもとに、避難ハッチについての規定を一覧表にしました。

収容人員 防火対象物の例
(令別表第1より)
避難器具
必要階
避難器具

必要個数

避難ハッチ
設置階
1 20人以上 6項 病院、診療所 2階以上の階
または地階
収容人員
100人以下は1100人増加ごと1追加
地階

2階

老人短期入所施設
老人ホーム
保育所
児童養護施設
幼稚園
特別支援学校
2 30人以上 5項 旅館、ホテル 2階以上の階

または地階

収容人員

100人以下は1

100人増加ごと1追加

地階

2~10階

共同住宅
3 50人以上 1項 劇場、映画館 2階以上の階

または地階

 

主要構造部を耐火構造とした建築物の2階を除く

収容人員

200人以下は1

200人増加ごと1追加

地階

2~10階

公会堂、集会場
2項 カフェ、ナイトクラブ
遊技場
風俗営業
カラオケボックス
3項 料理店
飲食店
4項 百貨店、物販店舗
7項 小中高等学校、大学
8項 図書館、博物館、美術館
9項 公衆浴場
イ以外の公衆浴場
10項 停車場、航空機発着場
11項 神社、寺院、教会
4 100人以上 12項 工場、作業場 3階以上の階または地階で3階以上の

無窓階または地階

収容人員

300人以下は1

300人増加ごと1追加

地階

3~10階

スタジオ
15項 前各項未該当の事業場
150人以上 12項、15項と同じ 3階以上の

有窓階

5 10人以上 1~4号以外の防火対象物 3階(※1)以上の階のうち、当該階(※2)から避難階または地上に通ずる階段が2以上設けられていない階 収容人員

100人以下は1

100人増加ごと1追加

2~10階

このように避難ハッチの向きについては言及がないため、消防署へ確認し、指導を受けることが最善策と言えます。

避難ハッチの向きを図面で確認

避難ハッチの向き、つまりふたがどちらに開くかは、図面上で確認することができます。

こちらの商品図面(平面図)を利用して、読み方を説明します。

避難ハッチ図面

出典:オリローハッチUSD-52NB

図面上で向きを示す記号の読み方

図面は向かって右側が吊元を示しています。一点鎖線で「>」の形で表していることが、その理由です。「<」と表示されていれば向かって左側が吊元となります。

避難ハッチの向きはどちらが正解か

避難ハッチを埋め込む際の向きについては、法的に制限や明示されていることはありません。

各自治体の消防署によって見解が異なるため、図面を作成する都度、確認をすることがベストな選択となります。

降下する者が建物壁面側を向く

東京消防庁の管内の建物(防火対象物)では、降下する者が建物側を向くように避難ハッチを設置するよう指導されることが一般的になっています。

火災などの現場においては、パニック状態になってもおかしくありません。
冷静にふるまっていても、動揺を隠しきれずに普段できることができない、つまり思い通りに手足が動かないことも想定されます。

そんな状況の中、不慣れな避難ハッチからハシゴを使って降下すると、踏み外しや最悪の場合は落下の危険性がでてきます。

降下中に視線が建物の内部に向けば、幾分かの恐怖心を抑える効果が期待できるわけです。

降下する者が屋外景色側を向く

消防署の指導によっては、降下する者の視界が屋外側を向くよう、避難ハッチの設置を求められることもあります。

これは動揺している中での降下において、思わず足を踏み外す、荷物が邪魔で途中から飛び降りる必要があるなど、不測の事態に備えて建物側に着地できるようにするためです。

デメリットは、高層階での避難の際に、視界が建物外側に向く体勢では恐怖心が芽生える可能性が否定できないことです。

避難ハッチの取り扱い注意点

避難ハッチで注意すべきことは、向きだけではありません。バルコニーは緊急時の避難経路でもあるため、避難ハッチは入居者の管理に依存することになります。そのため避難ハッチ周辺には、避難に差し支えるようなモノを置かないようにしなければなりません。定期点検時に指摘されることもありますが、緊急時に邪魔になるようでは、指摘の意味がなくなります。指摘されやすいのは降下空間とふた周辺です。

降下空間

消防法施行規則第二十七条第二項の規定に基づいて、避難ハッチは「避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目」が定められています。その細目の中で、降下空間については下記のような定義がなされています。

避難はしご救助袋

第ニの四 降下空間:避難器具を使用できる状態にした場合に、当該避難器具の設置階から地盤面その他の降着面(以下「降着面等」という。)までの当該避難器具の周囲に保有しなければならない避難上必要な空間をいう。

出典:福岡市消防用設備等の技術基準 (各論17.避難器具)

降下空間には避難時に差し支えるようなモノは置いてはなりません。
例えば、物干し竿、洗濯機、鉢植え、灯油ポリタンクなどです。

ふた周辺

避難ハッチのふた周辺は、避難空地と呼ばれる「避難器具の降着面等付近に必要な避難上の空地」をキープしておかなければなりません。

つまり、避難ハッチの周辺には、何もない状態がベストです。
上図の第16-31図が避難ハッチの避難空地を示しています。

伸展した吊り下げはしごの周辺も避難空地をキープすることが必要です。

出典:消防予第66号 避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目を定める告示の施行について (平成8年4月16日)

まとめ

避難ハッチを埋め込む向きや図面上で向きを確認する方法、避難ハッチの設置基準などについて書きました。避難ハッチで降下する者が、

  • 建物側
  • 屋外側

を向くように設置したとしても、メリットとデメリットはあるため、消防署に指導を仰ぐことが消防設備士としての責任と考えることができます。またバルコニーに避難ハッチがある部屋の居住者にも、降下空間や避難空地について知識を共用することも重要ではないでしょうか。

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