かつて住んでいたワンルームマンションで、水漏れを体験しました。まさかマンションの室内で水漏れを経験するとは思わず、バケツやコップを置くだけで何もできなかった苦い記憶が今でも鮮明に残っています。当時(1990年代後半)は「ゲリラ豪雨」という言葉もなく、ただ雨の日が続いた時期ではありましたが、築年数が古く、オーナーも交代するなど、今にして思えば問題ありな物件だったのかもしれません。一般的にマンションの水漏れと言えば、上階にある避難ハッチのシーリングの劣化などが原因で、階下のベランダにポタポタと滴り落ちるという状況なら多くあります。
水漏れによって避難ハッチを交換するきっかけになったりもします。避難ハッチだけでなく、建物には屋根や外壁をはじめ、いたるところに防水処理がされていますが、年月の経過とともに水漏れリスクは高まるものです。そこで今回は、避難ハッチの防水やベランダの水漏れの原因などについて、お伝えすることにします。
ココがポイント
- 避難ハッチは設置の際に防水処理がなされる。
- ベランダの水漏れの原因は避難ハッチだけとは限らない。
- 水漏れの責任の所在は誰にあるのかを知る。
目次
避難ハッチの防水について
避難ハッチはマンションのバルコニーなど、屋外に設置されます。
外壁や屋根と同様、風雨に打たれるため、避難ハッチ周辺の開口部から雨水が漏れ出さないように、防水処理はしっかりとやらなければなりません。
避難ハッチの防水は、どういう方法で行われるのか、どのような材料が使われているのか、簡単に説明しておきます。
設置工事の流れと防水のタイミング
避難ハッチの新規設置、および劣化による取り換えの時には、必ず防水処理が行われます。
避難ハッチの設置工事では、防水処理はほんの一部に過ぎません。
しかし手抜きはできないステップです。
例えば、改修による取り換えを例にすると、
- 納まり上必要な寸法を測定
- 避難ハッチの取り外し(上蓋、下蓋、吊り下げはしご)
- 既設ハッチの枠の防錆処置(必要に応じて)
- 新品の避難ハッチ取り付け
- ハッチ用吊り下げはしご取り付け
- 防水処理
- 動作テストと清掃
という流れになります。
防水処理は避難ハッチを新たに取り付けた後になります。
防水に使用される材料
避難ハッチとスラブとの防水に使われる材料は、
- シーリング材
- マスキングテープ
- ヘラ
などです。
余談ですが、今回のテーマである防水や建材の接着などの工程を、「シーリング」あるいは「コーキング」と言います。
ネット上で塗装や建築に従事する方が、その違いを説明していますが、ここでは便宜上「シーリング」で統一することにします。
シーリング材には、材質によってウレタン系、シリコン系、アクリル系などがありますが、避難ハッチの防水に使うのならば、
- 耐候性
- 耐水性
- 耐熱性
- 経済性
などを考慮して選ぶことになります。
シーリング材の選定は工事業者に任せてよいです。
ベランダや避難ハッチ以外の防水工事と種類
防水工事は避難ハッチ周辺だけではありません。
ベランダ、バルコニー、屋根、外壁など雨水が侵入する恐れがある場所には、必ず防水工事が施されます。
建物の内部に雨水が侵入してしまうと、大きな損害を招きます。
冒頭で紹介したマンションの水漏れが良い例です。
防水工事によって建物の寿命を延ばす効果もあるため、定期的なメンテナンスや耐用年数による防水改修工事が必要です。
防水工事はいくつかの種類があり、用途や場所によって最善の工法を選択することになります。
ここではベランダや陸屋根(平らな屋根)、屋上の防水について簡単に紹介します。
アスファルト防水工法
アスファルトを含ませたルーフィングシートを、陸屋根(平らな屋根)などに敷き詰める工法です。
- 加熱しながら施工する「熱工法」
- トーチバーナーで炙りながら貼る「トーチ工法」
- 熱を加えない「常温工法(冷工法)」
などの工法があります。
塗膜防水工法
液体のウレタンやガラス繊維強化プラスチック(FRP)を塗る工法です。
バルコニーなどに採用されることが多く、比較的短時間で仕上げることができるため、近年で最もポピュラーな工法になります。
シート防水工法
塩化ビニルやゴム製のシートを被せる工法です。
接着剤を用いる「接着工法」、専用機械で固定する「機械固定工法」が用いられます。
浸透性防水工法
コンクリートの表面に浸透性の高い材料を塗り付け、防水効果を高める工法です。
内部まで浸透して防水層をつくります。
ひび割れや劣化を防止する役割もあります。
ベランダの水漏れが発見されるきっかけ
建物の築年数が古いほど、避難ハッチ周辺からの水漏れは増加傾向にあります。
「ベランダの上から水漏れして荷物が置けない」
など、被害を受けている居住者の方から連絡を受けて、はじめて状況がわかることが圧倒的に多いものです。
上階の居住者も、まさか階下のベランダに水漏れさせているとは想像もしていないでしょう。
水漏れがきっかけで上下階の居住者同士がギクシャクしたりすると、当事者だけでなくマンションオーナーや管理組合も、問題解決に時間を取られることもあるのではないでしょうか。
すぐにでも水漏れの原因を特定して、しかるべき対処する方が得策です。
【参考】ベランダとバルコニーの違い
避難ハッチに付随する知識ではありますが、ベランダとバルコニーの違いをご存知でしょうか。
一緒だと認識している人もいれば、ベランダはアパート、バルコニーはマンション、またはその逆をイメージする人もいると思います。
特に意識せずとも、言いやすい方を使えば日常会話は成立しますが、建築用語の観点からすると明確に違いがあります。
ベランダ
屋根付きの歩行スペース。
マンションならば、物干しやエアコンの室外機が置いてある建物の外に出ている部分です。
上階も同じように外に出ている部分がある場合、階下にとっては屋根になっていることがバルコニーとの違いです。
バルコニー
2階以上にある手すり付きで屋根のない開放的なスペース。
マンションでは、最上階に手すり付きの広い解放スペースが付属している物件が見受けられますが、これは「ルーフバルコニー」と表示されることが多いです。
テラス
建物1階に付属する路面より一段高い屋外スペース。
わかりやすいのがカフェのテラス席です。
マンションや一戸建てにもテラスはあります。
ベランダとバルコニーの違いは、屋根があるか無いかで判断すると良いでしょう。
ベランダの水漏れ原因
ベランダの水漏れの原因は、避難ハッチの周辺だけでなく、
- 初期施工時の手抜き
- ベランダの防水処理不足
- コンクリートのひび割れ
- ベランダの排水不良
などの可能性もゼロではありません。
どういう状況で水漏れが発生するのか、上記の例について、簡単に説明しておきます。
初期施工時の手抜き
信じられない話かもしれませんが、意外に多いのが手抜きによる施工不良。
一戸建て住宅のベランダで水漏れが発生すると、施工業者が無償で補修する義務を負うため、不思議とそのようなトラブルは多くありません。
ベランダの防水処理不足
防水処理がしっかりしていれば、まず、水漏れや雨漏りは起こりません。
ベランダの防水工程は、塗膜防水でウレタンを使用する場合、
- 下地処理
- 下塗り(プライマー塗装)
- 通気緩衝シートおよびシートの継ぎ目の処理
- ウレタン塗装
- トップコートの塗布
という流れになります。
特に塗装は2回または3回塗りが一般的ですが、工期に追われたり技術的に未熟な職人によって塗装が不十分ということも考えられます。
ただし完璧に防水をしても100%水漏れが無いとは言い切れません。
コンクリートのひび割れ
経年劣化によってコンクリートにひび割れが発生し、そこから雨水が侵入して階下に滴り落ちることが一般的です。
ベランダの排水不良
ベランダの排水溝は、砂、葉、泥などが堆積しやすく、掃除が行き届いていれば水漏れの発生は予防できます。
詰まりを無くすだけで問題が解決することは多いです。
避難ハッチが原因の場合の処置
ベランダの水漏れの原因が避難ハッチの場合、シーリングのやり直しで済むのか、取り換えを判断することになります。
シーリングのやり直し程度で済むようならば補修工事は早く済みますが、避難ハッチの取り換えとなると数日を要します。
万一避難ハッチに劣化が見られず、原因が特定できない場合は、ベランダ全体の防水を検討することになります。
そうなると、ある程度の工事期間は必要になり、その間、ベランダは使用できません。
いずれにしろ問題が発覚した場合は、管理組合やオーナーを通じて工事業者に補修または取り換えを依頼し、消防への届け出もしくは居住者への説明や工事の了承を得ることも必要になります。
ベランダの水漏れの責任は誰が負うのか
天気が良いのにベランダに水が溜まっている、雨の日は必ず水が上からベランダにポトポトと落ちてくる状況に気付いたとき、どう動けばよいのか戸惑う人も多いのではないでしょうか。
いきなり上階の居住者に怒鳴り込むのは問題外として、勝手な判断で補修や改修に取り組まずに、まずは建物のオーナーや管理組合あるいは管理会社に相談を持ち掛けることをおすすめします。
マンションのベランダは共用部分ですが、主に使用する居住者に管理責任がある専用使用権が与えられています。
そのため、
- 被害を受けた方への弁済
- 水漏れ対策費用の負担
- 業者手配
などについては、管理組合や管理会社もしくはオーナー、被害を受けた居住者、原因元となった居住者との三者間で、しっかりと役割と責任の分担を明確にしておきたいところです。
避難ハッチやベランダの管理を怠ったために水漏れを誘発したことを原因として、一方的に、そこの居住者が全責任を負うようなことでは納得がいかないでしょう。
水漏れの原因によって、
- 居住者の使用方法が原因による水漏れ
- 管理組合や管理会社もしくはオーナー側が全額または一部負担
- 共用部分のため保険を適用
といったことは、規約や話し合いで確認しておくべきです。
一般的なベランダの水漏れ責任の所在
マンションのベランダは共用部分のため、コンクリートや排水管などの老朽化が原因であれば管理組合が費用と責任を負います。
もしベランダに洗濯機を置いて、そのまま排水が階下に漏れてきたということならば、明らかに洗濯機の使用者に責任があります。
ベランダの排水溝に落ち葉や砂で目詰まりを起こして水漏れが発生した場合も同様です。
避難ハッチの劣化による雨漏りでも、原則、管理組合が負担するケースが多いですが、前述の「専用使用権」を盾に使用者が負担するという取り決めをしている物件もまれにあるようです。
専用使用権はバルコニーのほかに、自転車置場、駐車場、駐輪場、バイク置場、専用庭、倉庫などがあります。
専用庭の場合は、1階の居住者が使用料を納めることが一般的です。
ややこしいのは玄関扉、窓枠、窓ガラスです。
内側は専用部分、外側は共用部分なのですが、専用使用権の代表的なものとして認識しておきましょう。
まとめ
今回は、避難ハッチの防水とベランダの水漏れをテーマにお伝えしました。
建物はどうしても時間の経過とともに劣化します。
ベランダの水漏れも、いつ発生するか誰にも予測はできませし、ベランダ以外の場所でも水漏れは起こる可能性もあります。
対応のしかた次第では、居住者同士や管理組合との関係性もギクシャクしてくることもあるでしょう。
しかし、そうならないために規約や使用細則が定められているため、一度は確認しておくことをおすすめします。
避難ハッチの劣化による水漏れならば、早急に取り換えを業者に依頼しましょう。
当社ならば、お手頃価格で取り換えが可能です。