避難ハッチ

避難ハッチはずっと使える?避難ハッチの耐用年数と交換時期の見極め

避難ハッチは防火対象物に設置される避難器具のひとつで、避難用吊り下げはしごとも言われています。

身近なところではマンションのバルコニーで見ることができます。ステンレスや鉄でできたふたのようなものがあれば、それが避難ハッチです。避難ハッチは火災の際に通常の避難経路で逃げ遅れた場合など、緊急の避難経路として設けられているものです。また津波や河川の氾濫により床上または室内に浸水して水位が上昇し続ける状況においては、上階に逃げる時のために活用します。この避難ハッチ(避難用吊り下げはしご)は、どの程度、使えるのでしょうか。

点検の対象にはなっていますが、見た感じが丈夫、あまり使われないから長持ちしそう、などの理由で簡単には故障しないイメージだと思います。しかし、どの製品でも耐用年数の目安があり、永久に使えるものではありません。そこで今回は、避難ハッチの耐用年数と交換時期の見極めを主なテーマとしてお伝えします。

ココがポイント

  1. 避難ハッチの製品上の耐用年数の相場は幅が広い。
  2. 対応年数を満たさなくても交換時期のサインが現れる。
  3. メンテナンスの不備が招く最悪なケースについて確認しておきましょう。

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避難ハッチの耐用年数は幅が広い

避難ハッチの耐用年数は、ネット上での情報では10年~30年と、非常に幅が広くなっています。
情報に幅があるのは、建物の管理会社、マンションの管理組合、工事会社など関係者の経験や見立てを、独自にネット上で公開しているためだと推測されます。

どの情報が正しいのかわからなくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、全てが間違っているとは限りません。

今後、避難ハッチの交換を控える建物オーナーや管理組合としては、経験則を根拠とした情報だけでなく、建築分野で用いられる耐用年数を知れば、

  • 交換時期が予想できる
  • 交換台数の目途が立てやすい
  • 工事予算が組みやすくなる
  • 機能をリフレッシュする判断ができる

というメリットが生まれます。建築分野で用いられる耐用年数とは何なのか、用語の解説も含めて紹介します。

4種類の耐用年数

そもそも建築分野の耐用年数については4種類の考え方が存在します。

  1. 物理的耐用年数・・劣化の目安
  2. 経済的耐用年数・・価値下落の目安
  3. 社会的(機能的)耐用年数・・陳腐化の目安
  4. 法定耐用年数・・税法上の価値の目安

それぞれ内容は以下のとおりです。

【物理的耐用年数】
家電製品などが良い例で、構造や材質の劣化により機能などが維持できず、使用できなくなるまでの年数。
簡単に言えば寿命であり、普段使いで自然に壊れたり故障したりする期間の目安。
例えば、マンションに人が住めなくなる年数または建物が崩壊する年数とも言えるが、非現実的なため用いられにくい。

【経済的耐用年数】
継続して使用できる限度または価値が無くなるまでの年数。
外観や構造の劣化または建物としての機能の損失を抑えるためのメンテナンス費用も考慮されて算出される。
しかし、建物の用途やオーナーの意向などでメンテナンス費用の公平性が保てない部分もあるため、あまり用いられない。

【社会的(機能的)耐用年数】
時代の変化により期待される機能が果たせず陳腐化していくまでの年数。
リニューアルをきっかけに技術的な機能の向上は期待できるが、その場合は費用負担を考慮して決定される。

【法定耐用年数】
公平に価値を算出するために国が設定した、現在、もっとも使われている年数。
税法上の価値を有する期間であり、法定耐用年数を過ぎると使用できないわけではない。

以上、4種類の耐用年数でした。
これらを避難ハッチに当てはめてみると、交換の時期などヒントが見えてくるかもしれません。

※耐用年数参考:文部科学省https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/01/08/1343018_03_2.pdf

避難ハッチの物理的耐用年数

避難ハッチは、製品の在庫として倉庫などに保管されるままならば、さほど状態の変化は見られず、物理的な耐用年数はかなり長めになるはずです。しかし実際に使用された場合、避難ハッチは、

  • 風雨
  • 気温
  • 紫外線
  • 塩害

など、過酷な環境下に置かれやすい製品です。はたして、ネット上の情報である耐用年数10年~30年もの長い間、機能や外観を維持できるかは疑問が残ります。そこで避難ハッチと似た環境におかれる外壁や屋根の塗装の耐用年数を参考に、避難ハッチの物理的耐用年数を推測してみることにします。

塗装の場合は10年が目安

住宅の外壁や屋根の塗装では、塗料の質(グレード)にもよりますが、おおむね10年から15年が耐用年数とされていて、塗り替え時期の目安になります。
住宅ローンを完済するまで自宅の美観や構造を守り続けるならば、2.3回は塗り替えが必要になる計算です。

マンションの緊急避難経路として設置される避難ハッチは、外壁や屋根の塗装と使用環境も似ていることから、少なくとも1度の交換は発生するのではないかと想像が付きます。

過酷な環境に置かれるステンレス製避難ハッチが、1年かそこらで腐食することはあり得ません。おそらく5年10年という時間は必要でしょう。設置場所によっては、想定した耐用年数を超えて良好な状態を保ち続ける可能性もあります。つまりは劣化が早いか遅いかは、設置場所の環境に左右されるため、点検をきっかけに判断する前提を崩すことはできません。安全という概念が絡んでくる以上は、しゃくし定規な耐用年数は参考程度に考えておくことが重要です。なお製品ごとの耐用年数を知りたい場合は、各メーカー様へ直接、お問い合わせくださいますよう、よろしくお願い致します。

避難ハッチの経済的耐用年数

避難ハッチを、単なる緊急避難のために設置された吊り下げはしごではなく、入居者の命綱と考えると、その価値が下がることはありません。
むしろプライスレスと言っても良いでしょう。

マンションの一室で火災が発生し、通常の避難ルートでは間に合わず、やむなく避難ハッチを使って階下に逃げようとしても腐食により避難ハッチが作動せず、助かる命が助からなかったという事態が起こればマンション全体の価値は暴落です。避難ハッチの定期点検、劣化による交換などを軽視すれば、建物全体の価値に影響を及ぼすことがあると想像できます。

避難ハッチの経済的耐用年数は、10年などと区切りをつけることは難しく、「設置している限り有効」という状態が望ましいのではないかと思われます。

避難ハッチの社会的(機能的)耐用年数

避難ハッチはステンレスで作られています。流通量と加工性に優れたSUS304が使われており、避難ハッチだけでなく多くの製品にも使用されています。吊り下げはしごの部分もステンレスが使用されている製品が多いですが、「避難器具の基準」によれば明確に材質が指定されているわけではありません。

避難はしごの材質は、次に定めるところによる。

縦棒にあっては、耐久性に富んだ繊維製のもの又はこれと同等以上の耐久性を有するもの、横桟にあっては、金属製のもの又はこれと同等以上の耐久性を有するもの、つり下げ具にあっては、鋼材又はこれと同等以上の耐久性を有するものであること。耐食性を有しない材質のものにあっては、耐食加工を施したものであること。

避難器具の基準:総務省消防庁

一般的にはオールステンレスと考えてよいでしょう。さびにくいように仕上げられていますが、全くさびないわけではありません。材質面から言えば、腐食が一番の敵であると言えますが、この先もステンレス以上の適正な材料が出てくるとは思えません。機能面でも各メーカー間で大きな差別化は生まれにくいはずです。よって社会的耐用年数は、塗料と同様に10年前後を想定すると良いかもしれません。

税法上の耐用年数

避難ハッチは、税法上での耐用年数は8年と定められています。
随分と短い印象を受けますが、実際のところ、腐食による交換を考えると妥当なラインとも言えます。

そのほか、避難ハッチに関連する建物および建物付属設備の耐用年数をピックアップして、一覧表にしてみました。

種類 構造または用途 細目 耐用年数
建物 鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの 事務所、美術館 50年
住宅用、学校、体育館 47年
飲食店 41(34)年
店舗、病院 39年
ホテル 39(31)年
建物付属設備 電気設備(照明設備含む) 蓄電池設備、その他 6年、15年
給排水又は衛生設備及びガス設備 15年
冷房、暖房、通風又はボイラー設備 冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロワット以下のもの)、その他のもの 13年、15年
昇降機設備 エレベーター、エスカレーター 17年、15年
エヤーカーテン又はドアー自動開閉設備 12年
消火、排煙又は災害報知設備及び格納式避難設備 8年

かっこ内は延べ面積のうちに占める木造内装部分の面積が三割を超えるもの

避難ハッチは「消火、排煙又は災害報知設備及び格納式避難設備」に該当します。

税法上の耐用年数と実用の耐用年数に相関関係があるとは言いませんが、減価償却を終える時点で、交換を考えるきっかけになる可能性もあります。
しかし、実際は6ヵ月ごとの点検で判断することが自然です。

※出典:減価償却資産の耐用年数等に関する省令
別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表より

【参考】法定耐用年数による減価償却の例

税法で定められた耐用年数を法定耐用年数と言い、主に減価償却の計算に用いられます。減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続です。
国税庁HPより抜粋

実際に例を挙げて計算してみましょう。

【減価償却の計算例】

  • RC造中古マンション築20年 H19年以降に購入
  • 建物価格5000円(うち建物付属設備は1000万円)
  • 建物付属設備は法定耐用年数15年超のため3年で償却可能
  • 償却率は国税庁「減価償却資産の償却率表」による
  • 建物の耐用年数は簡便法により算出
    耐用年数(減価償却期間)=法定耐用年数-経過年数(築年数)×80%
    → 47-20×80%=31(年)

建物:(5000万円-1000万円)×0.033=132万円
設備:1000万円×0.334=334万
合計466万円
なお4年目からは建物のみとなります。

適切な耐用年数の目安とは

4種類の耐用年数の中から、

  1. 物理的耐用年数・・劣化の目安
  2. 経済的耐用年数・・価値下落の目安
  3. 社会的(機能的)耐用年数・・陳腐化の目安
  4. 法定耐用年数・・税法上の価値の目安

避難ハッチに適切な耐用年数の目安となるのは、物理的耐用年数です。

腐食による劣化が交換のきっかけになっていることが多いため、これを見逃してしまうと、経済的にも社会的(機能的)にも影響が出ます。
そこに法定耐用年数が8年と、具体的な数字を国が公表していますから、

  • 法定耐用年数の「8年」
  • 現場での交換事例
  • メーカーの設計上の耐用年数

この3点の情報を仕入れることで、おぼろげながら見えてくるはずです。

避難ハッチ交換のサイン

避難ハッチは屋外に設置される以上、いずれ交換時期がやってきます。
ステンレスで作られているとは言え、定期的に点検されているならば、いつの日かサビや腐食を発見することになります。

交換の判断ポイントは、

  • 建物自体の築年数が古い
  • 本体部分に腐食がある
  • 腐食部分から階下に水漏れなどがある
  • 点検で指摘を受けた

などです。安全を担保できないと判断したら早急に交換しましょう。たとえ避難ハッチにわずかなサビが付着していて、開閉、吊り下げはしごの作動と収納、人の昇り降りなど、その時点で支障がなくても、急速にサビが増える可能性もあります。早めに交換の計画を専門業者に相談しておくことも肝心です。万一の時に作動しない、人が降りている途中で吊り下げはしごの腐食部分が切れて落下というような二次災害が絶対にあってはなりません。

避難ハッチの耐用年数と交換時期のまとめ

今回は避難ハッチの耐用年数と交換時期についてお伝えしました。

避難ハッチの法定耐用年数は8年です。
寿命としては、それ以上に長くなることも予想されますが、

  • 機能が発揮できない
  • 製品の構造や設計がニーズに合っていない
  • 劣化が進んで安全を担保できない

など、外観だけでなく交換すべき理由があれば、法定耐用年数や寿命に左右されずに取り換えの工事をすることが大切です。

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本コンテンツは基本的に情報の提供を主旨としていますが、情報源の確実性を保証するものではありません。法改正や市場の動向を鑑みて、予告なく記載内容の修正や訂正、情報の追加など変更を加えることがあります。
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消防点検ストア編集部

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