避難ハッチ

【消防署から指摘が?】避難ハッチの設置基準を徹底解説

施設や集合住宅のバルコニーに設置されている避難ハッチ。消防法施行令に明示されている避難器具のひとつですが、緊急的に上階から下階へ火災などから逃げるためのハシゴです。一見、工事関係者なら誰でも取り付け可能な設備のように思いますが、消防法などの法令では設置基準が設けられているため、安易に設置できるものではありません。

設置基準を読み間違えてしまうと消防署などから指摘を受け、最悪なケースでは工事のやり直しなどが発生します。マンションのバルコニーはコンクリートが打たれていますから、再工事の負担は想像に難くありません。今回は、避難ハッチの設置基準をできるだけ詳細にお伝えし、要点を押さえて工事に活かしてもらうことをテーマとしています。


ココがポイント

  1. 避難ハッチは緊急時の避難経路のために利用される
  2. 計画や施工について届け出、消防署との相談、吊元、位置などが肝心
  3. 設置基準は収容人員別にまとめると理解しやすくなる。

避難ハッチの見積もりはこちら(1都6県)

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避難ハッチ設置の必要性

避難ハッチは、法令上で分類されている8種類の避難器具の中で、避難はしごに属するものと認識されています。
ちなみに8種類の避難器具とは、

  • 避難はしご
  • 救助袋
  • 緩降機
  • 滑り台
  • 滑り棒
  • 避難タラップ
  • 避難ロープ
  • 避難橋

のことです。

開口枠の上下にふたが付いており、専用の吊り下げタイプのはしごが取り付けられているものが、避難ハッチと一般的に称されます。

この避難ハッチは、通常の避難経路で避難できない場合、緊急的に階下へ逃れるために設けられています。

そもそも建築基準法施行令第121条では、「避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。」とあります。
具体的には映画館や劇場をイメージしていただくとわかりますが、屋内の左右に階段が設置されているのは、この法令が理由です。
左右2方向の階段を使って避難できるようになっています。

ただし、「避難上有効なバルコニー」がある場合に、1つの階段で済むケースもありますが、建築基準法施行令第121条から「2以上」とはならないため、はしご付きの避難ハッチをバルコニーに設置して2方向目の直通階段とみなすわけです。

避難ハッチを設置する上でのポイント

避難ハッチが、なぜ必要なのかについては前述しましたが、実際の設置にあたってのポイントを押さえていきましょう。

消防法施行規則第27条(避難器具に関する基準の細目)では、避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目が定められていますので、随時、参照してください。

消防法施行規則第27条(避難器具に関する基準の細目)

設置位置

直通階段と対称となる位置に設置されます。
避難のための直通階段のそばに避難ハッチが設置するのは、目的からすると、意味があるとは言えません。

例えばマンションをイメージして欲しいのですが、正面向かって各フロアの右側に直通階段があれば、左側の住戸列の各バルコニーに避難ハッチが設置されます。

具体的には、各フロアの避難ハッチの降下口が、直下階の下降口と同一線上にない位置に配置します。

吊元(避難ハッチ正面の方向)

避難ハッチの吊元によって、部屋を見ながら降下、または部屋に背を向けて降下することになります。

それぞれ以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • 部屋を見ながら降下
    メリット
    日中の避難時に高さを感じて恐怖感を生むことが無くなる
    デメリット
    降下中の足の踏み外しによりバルコニー外に転落の可能性
  • 部屋に背を向けて降下
    メリット
    前面にはしご、背面に部屋または壁があるという安心感
    デメリット
    日中の避難時に、視界による高さを認知して恐怖感が生まれる可能性がある

避難ハッチの吊元については、所轄の消防署への相談項目として挙げておくと良いでしょう。
消防署独自の見解を指導される可能性があるためです。

避難器具(避難ハッチ)の設置基準

避難器具は8種類ありますが、避難ハッチに対象をしぼって設置基準を理解していきましょう。

ここで参照する法令は、消防法施行令第25条(避難器具に関する基準)および同令別表第1です。

消防法施行令第25条

令別表第1

避難ハッチの設置について

前提として、

  • 避難階および11階以上は避難器具の設置不要
  • 避難はしごは3階までしか設置できず4階以上は避難ハッチ

となります。

それをふまえて、さまざまな視点から表にまとめてみました。

避難ハッチの収容人員別設置基準

消防法施行令第25条を基に避難ハッチの設置基準を一覧表にしました。

収容

人員

防火対象物の例
(令別表第1より)
避難器具
必要階
避難器具

必要個数

避難ハッチ
設置階
1 20人以上 6項 病院、診療所 2階以上の階
または地階
収容人員
100人以下は1100人増加ごと1追加
地階

2階

老人短期入所施設
老人ホーム
保育所
児童養護施設
幼稚園
特別支援学校
2 30人以上 5項 旅館、ホテル 2階以上の階

または地階

収容人員

100人以下は1

100人増加ごと1追加

地階

2~10階

共同住宅
3 50人以上 1項 劇場、映画館 2階以上の階

または地階

 

主要構造部を耐火構造とした建築物の2階を除く

収容人員

200人以下は1

200人増加ごと1追加

地階

2~10階

公会堂、集会場
2項 カフェ、ナイトクラブ
遊技場
風俗営業
カラオケボックス
3項 料理店
飲食店
4項 百貨店、物販店舗
7項 小中高等学校、大学
8項 図書館、博物館、美術館
9項 公衆浴場
イ以外の公衆浴場
10項 停車場、航空機発着場
11項 神社、寺院、教会
4 100人以上 12項 工場、作業場 3階以上の階または地階で3階以上の

無窓階または地階

収容人員

300人以下は1

300人増加ごと1追加

地階

3~10階

スタジオ
15項 前各項未該当の事業場
150人以上 12項、15項と同じ 3階以上の

有窓階

5 10人以上 1~4号以外の防火対象物 3階(※1)以上の階のうち、当該階(※2)から避難階または地上に通ずる階段が2以上設けられていない階 収容人員

100人以下は1

100人増加ごと1追加

2~10階

※1:カフェ、ナイトクラブ、飲食店など、もしくは特定複合用途防火対象物で、2階にカフェ、ナイトクラブ、飲食店などの用途部分があるものは2階
※2:総務省令で定める避難上有効な開口部を有しない壁で区画されている部分が存する場合にあっては、その区画された部分

避難ハッチを含む避難器具適応性

避難器具の適応性を階別にまとめています。

避難器具 地階 2階 3階 4.5階 6~10階
避難はしご ※ (4階以上は避難ハッチ)
避難タラップ 不可
緩降機 不可
救助袋 不可
滑り台
避難橋
避難ロープ 不可 不可
滑り棒

※令別表第1(6)項(病院、保育所、幼稚園など)以外には設置可

こちらは避難器具の適応性を防火対象物でまとめてみました。

防火対象物 地階 2階 3階 4.5階 6~10階
第1号 避難はしご
避難タラップ
避難はしご

避難タラップ

緩降機

救助袋

滑り台

避難橋

緩降機

救助袋

滑り台

避難橋

救助袋

滑り台

避難橋

第2号

第3号

避難はしご

避難タラップ

緩降機

救助袋

滑り台

避難橋

避難ロープ

滑り棒

避難はしご

避難タラップ

緩降機

救助袋

滑り台

避難橋

避難はしご

緩降機

救助袋

滑り台

避難橋

第4号 なし
第5号 なし 避難はしご

避難タラップ

緩降機

救助袋

滑り台

避難橋

避難ロープ

滑り棒

 

避難器具設置の緩和規定について

消防法施行規則第26条では、避難器具の設置における緩和規定が定められています。

ここでのポイントは、

  • 第1項から第4項までは避難器具の設置個数の減免
  • 第5項から第7項までは避難器具の設置の免除

です。

第1項から第7項まで順を追って、さらに重要ポイントをピックアップします。

設置個数の減免

消防法施行規則第26条第1項から第4項に規定されています。

【第1項】
消防法施行令第25条第1項の各号で掲げられている防火対象物が、

  1. 主要構造部を耐火構造としたものであること
  2. 避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。以下「直通階段」という。)で、避難階段又は特別避難階段が2以上設けられていること

上記2点に該当する場合は、収容人員を2倍にして必要個数を定めることができます。

例えば、第1号(防火対象物は病院、幼稚園など)では、避難器具の必要個数は、

「収容人員100人以下は1、100人増加ごと1追加」

ですが、これを

「収容人員200人以下は1、200人増加ごと1追加」

として、必要個数を減らせます。

【第2項】
避難器具の設置が必要な階に、避難階へ通じる直通階段として、建築基準法施行令第123条および第124条に規定する避難階段または特別避難階段がある場合、その数だけ避難器具を減らせるという内容です。

とある幼稚園に必要な避難器具の個数は、「収容人員100(200)人以下は1、100(200)人増加ごと1追加」という規定から1個の設置と仮定します。

その幼稚園に避難階段または特別避難階段のが1か所あれば、避難器具の設置は免除になります。
その理由は、減らした結果が1未満なら避難器具の設置が免除とされているからです。

ただし避難階段は「屋外に設けるもの及び屋内に設けるもので消防庁長官が定める部分を有するものに限る。」とされています。

【第3項、第4項】
主要構造部が耐火構造になっている防火対象物に、

  • 渡り廊下がある場合
    その階に設置する避難器具の個数は、令第25条により得た数から渡り廊下の2倍の数だけ減らせる
  • 避難橋(屋上)がある場合
    直下階から屋上に通じる避難階段または特別避難階段が2以上あるとき、直下階に設置する避難器具の個数は、令第25条により得た数から避難橋(屋上)の2倍の数だけ減らせる

という内容です。
ここでの注意ポイントは、渡り廊下、避難橋ともに条件があることです。

渡り廊下の条件、

  1. 耐火構造または鉄骨造であること。
  2. 渡り廊下の両端の出入口に自動閉鎖装置付きの特定防火設備である防火戸(防火シャッターを除く。)が設けられていること。
  3. 避難、通行及び運搬以外の用途に供しないこと。

ならびに避難橋の条件、

  1. 避難橋が設置されている屋上広場の有効面積は、100平方メートル以上であること。
  2. 屋上広場に面する窓及び出入口に防火戸が設けられているもので、かつ、当該出入口から避難橋に至る経路は、避難上支障がないものであること。
  3. 避難橋に至る経路に設けられている扉等は、避難のとき容易に開閉できるものであること。

これらを満たすことで減免が可能になります。

設置の免除

消防法施行規則第26条第5項から第7項で規定されています。
参照URL:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=336M50000008006#1058

【第5項第1号】
避難設備の設置が免除になる条件をまとめました。
消防法施行規則第26条で条文を確認してください。

令別表第1の対象防火物 (1)~(8)項 (9)~(11)項 (12)項、(15)項
第5項第1号の対応条文 イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ イ、ニ、ホ、ヘ イ、ホ、ヘ

【第5項第2号】
イとロの条件を満たす。

【第5項第3号】
イからニの条件を満たす。

【第6項】
小規模特定用途複合防火対象物への設置免除の内容です。
小規模特定用途複合防火対象物とは、令別表第1(16)項イに掲げる防火対象物のうち、特定用途の延べ面積が全体の10分の1以下であり、かつ、300平方メートル未満であるものをいいます。

さらに小規模特定用途複合防火対象物の中で、(5)項(ホテル、旅館、共同住宅など)、(6)項(病院、保育所、幼稚園など)の用途であれば、以下の条件において避難器具の設置が免除となります。

  1. 下階に令別表第1(1)項から(2)項ハまで、(3)項、(4)項、(9)項、(12)項イ、(13)項イ、(14)項及び(15)項に掲げる防火対象物の用途に供される部分が存しないこと。
  2. 当該階(当該階に第4条の2の2第1項の避難上有効な開口部を有しない壁で区画されている部分が存する場合にあっては、その区画された部分)から避難階又は地上に直通する階段が2以上設けられていること。
  3. 収容人員は、令第25条第1項第1号に掲げる防火対象物の階にあっては20人未満、同項第2号に掲げる防火対象物の階にあつては30人未満であること。

【第7項】
屋上広場の設置免除の内容です。

主要構造部を耐火構造とした建築物が、下記の条件を満たす屋上広場の直下階、かつ、当該の屋上広場に通ずる避難階段または特別避難階段が2以上設けられている場合は、避難器具を設置しないことができます。

  1. 屋上広場の面積が1,500平方メートル以上であること。
  2. 屋上広場に面する窓および出入口に、防火戸が設けられていること。
  3. 屋上広場から避難階または地上に通ずる直通階段で建築基準法施行令第123条に規定する避難階段(屋外に設けるものおよび屋内に設けるもので消防庁長官が定める部分を有するものに限る。)または特別避難階段としたもの、その他避難のための設備または器具が設けられていること。

まとめ

今回は避難ハッチの設置基準を徹底解説ということで、収容人員別の設置基準や避難器具の適応性(階別、防火対象物別)、避難器具設置の緩和規定についてまとめました。主な関連法規は、消防法施行令第25条および同令別表第1、消防法施行規則第26条、消防法施行規則第27条になります。ここでお伝えした情報の正確性には留意していますが、都道府県独自の基準は考慮していないため、ご了承ください。それだけ避難器具の設置基準は複雑かつ多様性の裏返しとも言えます。

避難ハッチの必要性についても触れましたが、あくまでも緊急時の避難に使用されるものです。だからこそ安易な計画を良しとせず、細かく設置基準を規定することで、安全性を確保できるとも考えられます。

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消防点検ストア編集部

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